[PR] 当サイトはアフィリエイト広告による収益を得ています。
今回の記事は、吉田修一さんの小説『国宝』の書評・感想です。
本書を一言で紹介するなら…
歌舞伎の世界を濃密に描いた長編小説
以下に当てはまる人は、ぜひ読んでください。
本書は、Amazonの聴く読書「Audible(オーディブル)」の聴き放題対象本です。
無料体験なら本を買わずにタダで聴けますし、読み直しが大変だと感じる方もラジオ感覚で気軽におさらいできます。
まずは以下のボタンから、自分が対象かどうかチェックしてください。
リンク先:【公式HP】https://www.audible.co.jp/
小説『国宝』の書籍情報

極道と梨園。生い立ちも才能も違う若き二人の役者が、芸の道に青春を捧げていく。芸術選奨文部科学大臣賞、中央公論文芸賞をダブル受賞、作家生活20周年の節目を飾る芸道小説の金字塔。
・著者:吉田 修一
・再生時間:21 時間 7 分(上)、22 時間 2 分(下)
・ナレーター:尾上 菊之助

通常版・特別編を合わせた再生時間なので、実質的には半分のボリュームです。
朝日新聞で、2017年1月1日から2018年5月29日に連載された新聞小説を書籍化した作品です。
小説『国宝』のあらすじ

時代は、東京オリンピック間近の高度経済成長期。
ヤクザの世界で生まれ育った立花喜久雄は、父の死をキッカケに、地元・長崎から大阪の歌舞伎役者の名家に預けられます。
息子・俊介と出会い、歌舞伎の実力者・花井半二郎の元で特訓する喜久雄。二人は切磋琢磨しながら、梨園の世界で大きな存在感を放っていくのですが…
波乱万丈の人生を描く、50年にわたる長編ストーリーです。

途中、何度も驚きの展開が待っています!
小説『国宝』の感想(ネタバレなし)

小説『国宝』を読んで良かったと感じたポイント3つを、ネタバレなしで紹介します。
退屈しないストーリー展開
上下巻セットの長編ですが、自然に「えー!」と声が出るようなドラマチックな筋書きで、飽きが来ません。
特に大きな転換ポイントが章末にあることが多く、つい次の章を読みたくなってしまいます。

海外ドラマみたいね!
ちょっとミステリーっぽい要素もあるのですが、その謎が徐々に明かされていくのも良かったです。
また第三者の語り部によって物語が進行していくため、ストーリーの凹凸やメリハリを感じやすくなっています。

オーディブルの尾上菊之助さん、語り・セリフ・演劇すべてが最高でした!
光と影の描き方が巧み
喜久雄と俊介は歌舞伎界を盛り上げる第一人者になっていくのですが、裏側のダークな部分を描ききっている点が素晴らしいです。
俊介はある大きな「挫折」を経験してから表舞台に這い上がっていますし、喜久雄も決して順風満帆な一生ではありませんでした。

俊介の挫折、なかなかショッキングでした…!
一見すると華やかな梨園の世界ですが、裏ではだれにも見えない苦労を重ねてきた二人の姿が胸を打ちます。
他にも一人で孤独に亡くなっていった小野川万菊など、歌舞伎役者としての苦悩も余すことなく描いている点に魅了されました。
歌舞伎の世界に興味がわく
「歌舞伎、なにそれおいしいの?」
今まで興味ゼロだった人も、劇場に足を運びたくなる1冊だと思います。
たとえば歌舞伎の世界には、次のような用語があります。
今まで知らなかった世界を知ることができて良かったです。
もちろんすでに知識がある方は、楽しみが倍増すること間違いなし。

梨園の世界にどっぷり浸かってみませんか?
小説『国宝』のネタバレ解説

ここからは『国宝』のネタバレ解説です。
ネタバレを見たくない方は、以下のボタンをタップ!
歌舞伎の世界は実力主義
もっとも印象的だったのは、二代目・花井半二郎が自身の後継として、実子の俊介ではなく、部屋子の喜久雄を選んだシーンです。
「…襲名のことやけどな。わしは『花井白虎』になる。そやから、お前も『花井半二郎』継いだらええ」
【出典】『国宝』上巻 P.272
梨園の世界は実力主義。半二郎も自ら厳しく稽古をつけていたからこそ、息子よりも喜久雄の芸に光るものを感じていたのでしょう。
そして喜久雄は見事、病に倒れた二代目・半二郎の代役をやり遂げるのです。

俊介はどうなったの?
半二郎は息子の行く末を案じた妻・幸子から質問攻めを受けるのですが、非情にもこう告げていました。
「なんしかもう決めたことや。変更はない」
【出典】『国宝』上巻 P.231
当の俊介は冗談で喜久雄に殴りかかる姿を見せるなど、気丈に振る舞うのですが…
「父上様 探さないでください 俊介」
ある日、こんな文面の手紙を残して出奔するのです。
俊介と春江は何をしていたか
なぜ俊介は、姿を消したのか。その理由は、次のセリフから紐解けます。
「俺な、逃げるんちゃう。……本物の役者になりたいねん」
【出典】『国宝』下巻 P.15
俊介が選んだのは、自分に足りない芸を身に付けるための「武者修行」。
城崎温泉→有馬→皆生→(四国)道後→鈍川→(九州)黒川→霧島→名古屋
恋仲になっていた喜久雄の幼なじみ・春江を連れ、日本中の舞台に立ち続けます。
こうした苦労もあって、俊介は喜久雄にも負けず劣らず評価と名声を得て、最終的には「日本芸術院賞」を受賞するほどの実力者になったのです。

悔しさをバネにできたからこその結果ね!
付かず離れず応援していた春江の姿を含め、二人の10年間を思うと胸が苦しくなりました。
喜久雄・俊介の苦労と友情
俊介も挫折を経て、前述のように人目につかない努力を続けていましたが、じつは喜久雄にも大きな苦労がありました。
端役ばかり回され、やむなく挑戦した映画の撮影現場で壮絶なイジメにあうなど、ドン底を経験していたのです。

悔しさのあまり、壁を殴りながら言った一言が良かったですね。
「……なにやってんだよ。こんなとこでこんなことしてたら、ずっとこのまんまだぞ。……ここから這い上がんだよ、ここから這い上がれよ」
【出典】『国宝』上巻 P.406
そんな二人が『源氏物語』で共演した後、焼き鳥屋で盃を交わすシーンは胸熱でした。
「たまには酒でも飲まへんか?」(中略)「じゃあ、やきとりでも食おう」
【出典】『国宝』下巻 P.134
静かな友情・仲間意識のようなものが感じられませんか?
喜久雄と俊介の最後(ラスト)
俊介は足が壊死するアクシデントに見舞われ、両足を切断して義足になってしまいます。

え、そしたら演技はできなくなるよね…?
じつはリハビリを経て、カムバックを果たします。そして病気で倒れる直前まで、ギリギリの体で舞台に立ち続けるのです。
俊介が見せた役者魂とプロ根性。
彼は「本物の役者」になったと言えるのではないでしょうか。
一方の喜久雄というと、小説のラストがとにかく印象的です。
なんと公演中に舞台から降り、銀座の街に出ていきます。そしてスクランブル交差点のど真ん中で、『阿古屋』の一節を演じるのです。

周囲の悲鳴と鳴り響くクラクション…亡くなったようにも読み取れます。
喜久雄の心中はいかに。注目すべき点は、妻・彰子に心中を吐露した次のセリフにあります。
「やめたくねえんだ。でもよ、それでもいつかは幕が下ろされるだろ。それが怖くて怖くて仕方ねえんだよ。」
【出典】『国宝』下巻 P.388
喜久雄には、歌舞伎役者としてのキャリアが終わることに恐怖心がありました。しかし単に一線を退くことを恐れていたのではありません。
「三代目はもうダメだ」「演技にキレがない」
世間の評判を受けて、周りから言われて…そんな受身な引き際の決め方には、自分が納得できなかったのでしょう。
この微妙な表現の違いに、喜久雄の本音が表れているように感じました。

プロの矜持ってやつね!
では、今すぐキャリアの幕引きとするのか?
今は納得のいく演技ができていて、脂も乗っている時期です。スランプがありつつも、舞台でそのことに気づいた喜久雄は、次のような感情が湧いてきたのだと思います。
「このまま、ずっとずっと、演技を続けていたい」
舞台の上でも、上でなくても、永遠に芸は止めない。演じ続けていたい。
芸を見たいと言って下さるお客さまがそこのお一人でもいれば、ほかに何もいらないのでございます。
【出典】『国宝』下巻 P.411
本作のラストシーンは、そんな喜久雄の強い意志があふれ出てきて「憑依」した結果なのではないでしょうか。
小説『国宝』のモデルは誰か

主人公・立花喜久雄のモデルは名言されていません。
ただし以下の要素が喜久雄と似通っているため、五代目坂東玉三郎さんをイメージしていると推測されます。
今まで歌舞伎役者「女形」で人間国宝(重要無形文化財の保持者)になった方は、以下のとおりです。
芸名 | 認定年 |
---|---|
七代目尾上梅幸 | 昭和43年 |
六代目中村歌右衛門 | 昭和43年 |
四代目中村雀右衛門 | 平成3年 |
七代目中村芝翫 | 平成8年 |
五代目坂東玉三郎 | 平成24年 |
喜久雄の予測が正しければ、稀代の女形として描かれていた小野川万菊は、四代目中村雀右衛門さん、七代目中村芝翫さんあたりがモデルかもしれませんね。
小説『国宝』の耳読レビュー
本記事で紹介した『国宝』は、Audible(オーディブル)の配信があります。
実際に聞いた5つ星レビューはこちら。
項目 | 評価 | コメント |
---|---|---|
おもしろさ | ついつい聴き入ってしまう展開 | |
聴きやすさ | 歌舞伎用語以外は問題なし | |
ナレーター | 歌舞伎役者だから出せる世界観 | |
目次 | しっかりあり |
何と言ってもナレーションが素晴らしく、本当に劇場で演技を観ているような臨場感を味わえます。
声の抑揚やリズム、トーンなど、クオリティーが高すぎるんですよね…。

このリアリティーは、彼にしか表現できないと感じました。
物語の舞台が長崎→大阪→東京と変わることもあり、方言の多い作品ですが、違和感のないナレーションも素晴らしいです。

オーディブルでもピカイチの完成度と言えそうね!
また通常版に加えて特別版が収録されており、声の輪郭を何重にも縁取ったようなリアルな音声で聴けます。
今まで何百冊と聴きましたが、本作は他には無い、新しい感覚を味わえました。
上下巻セットの長編小説なので、紙で読み直すのは大変ですが、ドラマ感覚で楽しめるオーディブルなら楽チンです。
5分のサンプルは無料で聴けますので、以下のリンクからチェックしてください。
吉田修一さんの作品では、『国宝』以外も数多くラインナップされているので、オーディブルなら一緒に楽しめますよ。



リンク先:【公式HP】https://www.audible.co.jp/
小説『国宝』のまとめ

まとめは、ネタバレなしで書きます。ご安心を。
小説『国宝』を読んで感じた推しポイントは、以下の3つです。
- 退屈しないストーリー展開
- 光と影の描き方が巧み
- 歌舞伎の世界に興味がわく
今まで任侠ものには触れたことがなかったので、最序盤はとっつきにくかったのですが、次第に物語の世界に吸い込まれていきました。
長編小説に目が無い方はもちろん、人間ドラマや男性同士の熱い友情が好きな方にオススメです。

ナレーションは、今まで聴いた作品の中でもピカイチ!
気になる方は、ぜひAudibleの無料体験を使って聴いてみてくださいね。
『国宝』以外のおすすめ小説・声優俳優の朗読しているタイトルが気になる方は、以下の記事も参考にぜひ。