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今回の記事は、池井戸潤 著『俺たちの箱根駅伝』の書評・感想です。
本書を一言で紹介するなら…
以下に当てはまる人は、ぜひ読んでください。
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書籍情報
古豪・明誠学院大学陸上競技部。箱根駅伝で連覇したこともある名門の名も、今は昔。本選出場を2年連続で逃したチーム、そして卒業を控えた主将・青葉隼斗にとって、10月の予選会が箱根へのラストチャンスだ。故障を克服し、渾身の走りを見せる隼斗に襲い掛かるのは、「箱根の魔物」……。隼斗は、明誠学院大学は、箱根路を走ることが出来るのか?
一方、「箱根駅伝」中継を担う大日テレビ・スポーツ局。プロデューサーの徳重は、編成局長の黒石から降ってきた難題に頭を抱えていた。「不可能」と言われた箱根中継を成功させた伝説の男から、現代にまで伝わるテレビマンたちの苦悩と奮闘を描く。
【出典】Amazon HPより
要約・あらすじ
本作は、以下2つの視点から描かれています。
それぞれの要約(あらすじ)を、ネタバレなしで、サクッとまとめます。
①学生連合チーム(大学・走者)
明誠学院大学のキャプテン・青葉隼人は、タッチの差で箱根駅伝の本選出場を逃した責任を感じつつ、学生連合チームへの招集を受諾する。
学生連合は、各大学からのいわば寄せ集め集団。しかし監督の甲斐は、本選3位以内の目標を掲げる。マスコミから噴出した連合チームの不要論、ライバルチームからの口撃。厳しい状況のもと、ベクトルの揃わないチームの中で、隼人はキャプテンとして、1つのチームにまとめ上げていく。
そして迎えた本選。選手たちには、各レースに賭ける想いがあった。偉大なランナーである父への劣等感、家族に対する感謝…各走者が想いをのせたタスキリレーの結果はいかに。
②大日テレビ(放送局)
大日テレビ・徳重は、編成部の黒石から、箱根駅伝中継にタレントを起用するよう命じられる。
しかし箱根駅伝のウリは、硬派なスポーツ中継。悩める徳重は、病気によるメインアナの降板・代役探しなど、本番に向けた出演の調整に奔走する。
そしてレース当日は、あいにくの雪予報。そして思わぬレース展開に。
徳重は無事に生中継を完遂できるのか。
感想・考察
本作を読んだ感想・考察(面白かったポイント)は、以下の5つです。
①学生連合にフォーカス
本書が特徴的なのは、学生連合(関東学生連合)チームを描いた作品であること。
毎年10月に行われる箱根駅伝予選会で出場権を得られなかった大学の中から、予選会で個人成績が優秀な選手が選抜されて構成される
【出典】Wikipediaより
本作の登場人物は、本選に進めなかった大学の代表者が集う、いわば寄せ集め集団。
あえて敗北者に焦点を当てる。そしてチーム結成から後半のレース本番にかけて、選手の葛藤・心の闇が浮き彫りになっていくストーリー。
王道の駅伝小説とは一味違う魅力があります。
②学生連合の特異性
そもそも学生連合チームが、1つのチームとしてまとまるのが難しい理由があります。
特に興味深いのが、1つ目の記録。
学生連合チームの記録は公式とは認められず、あくまで参考になります。
チーム名 | 期間 | 記録 |
---|---|---|
学連選抜 | 2007年〜 | 公式 |
学生連合 | 2015年〜 | 参考 |
作中では監督の甲斐が「本選3位以内」の目標を掲げるものの、一部の選手たちは反応も冷ややか。
「何のために走るのか?」
走ること自体への疑問が浮かび、チームのベクトルが揃わないのも無理はありません。
だからこそ、一体感が生まれていく過程にワクワクします。
③チームがまとまっていく過程
チームが空中分解しそうになる厳しい状況のなか、キャプテンの隼人の活躍が光ります。
次第に明らかになってきたのが、走る事自体への嫌悪感ではなく、それぞれランナーとしての抱えている悩み・葛藤です。
例えばメンバーの富岡周人は、同じ箱根駅伝ランナーの父と比較し、劣等感を持っていました。
周囲から期待をかけられ、努力を続けてきた結果が、予選敗退。
本選に出られない自分は平凡だ、これでは父も認めてくれないと、自分を責めていたのです。
しかし隼人は、次のような言葉をかけます。
「もっと自由で良いんじゃないのか。肩ひじ張らずにさ。自分がやりたいようにやればいいと思う。周人は、親父さんのために走っているわけじゃないだろ。どう思われても、自分のために走れば良いんじゃないかな」
【出典】「俺たちの箱根駅伝(上)」より
スポーツ競技だけでなく、組織に属する個人はみな、考え・感情が異なるもの。
だからこそ相手と向き合い、人となりをよく知ることが大切。
対話はチームビルディングの第一歩として重要だと、再認識しました。
④監督・甲斐の言葉えらび
チームビルディングに一役買ったのが、監督の甲斐。
現役の会社員で監督経験もありませんが、かつて指導していた監督が一目置く存在。
その才能は色々ありますが、個人的に好きだったのが、
例えば、6区の山下りを任された猪俣丈。
後発のランナーに抜かれて、自分を見失いそうになるシーンがあります。
そんな時、監督の甲斐が声をかけます。
「俺たちがついているぞ。一緒に走ろう。(…中略…)頑張れ。晴が待っているぞ。お前のタスキを待っているんだ。」
【出典】「俺たちの箱根駅伝(下)」より
まるで乾いた砂漠に、水が降り注ぐような感覚。
言葉の重み、大切さがひしひしと伝わってくるシーンに、原田マハさんの「本日は、お日柄もよく」を思い出しました。
上記以外にも、
などが素晴らしく、リーダーの果たすべき役割が参考になりました。
ビジネスマンとして学びが多く、参考になります。
⑤駅伝中継の裏話
本作では、たすきをつなぐ選手だけでなく、駅伝を中継する放送局側の裏話や苦労が紹介されています。
例えば、駅伝中継をスタートした頃の話。
当時、箱根駅伝の生中継は、技術的に困難とされていました。
そこで中継施設を設置するため、重い機材を背負って道なき道を、山頂まで登る。しかし悪路のため下山できず、野宿することに…。
まさに「プロジェクトX」の世界!
今では当たり前の箱根駅伝中継ですが、かつてのテレビ関係者の苦労を知ると胸が熱くなります。
また放送中のコマーシャルについて、かなり注意深いディレクションが必要とのこと。
「120秒のCMを、どのタイミングで入れるのか」
その難しさが分かりました。
社会派ドラマを得意とする池井戸潤さんの綿密な取材力がキラリと光る本作。
制作側の視点を取り入れることで、より重層的な物語に仕上がっていると感じました。
【2008年・4位】実話でないが、近いモデルあり
著者の池井戸潤さんが「現実のレースとフィクションの線引きに悩んだ」(読売新聞オンライン・4/23)と語っているように、本作は実話ではなくフィクションです。
しかしモデルとなったと思われる大会があります。
それが、2008年(第84回大会)の本選。
「3位以内を目指す」と公言する選手がいたことも、本作で甲斐監督が掲げた本選3位以内の目標ともリンクする部分がありますね。
以上のことから、第84回大会から着想を得ている可能性はあります。
ちなみに当時、学連選抜チームの監督だったのが、原晋氏(現・青学大監督)。
元会社員・営業マンが監督となり、青学大を強豪に押し上げた…本書にも通じる経歴を持っている彼の著作は、オーディブルでも聴けますよ。
【最新情報】実写化(ドラマ化、映画化)
現時点では、実写化の予定はありません。
池井戸作品といえば、以下のように、TBS日曜劇場のイメージが強いです。
ただし箱根駅伝といえば、日本テレビ。
実際に走っているシーンの撮影が難しそうですが、池井戸作品では「花咲舞が黙ってない」の放送実績がありますので、今後の発表に期待しましょう。
耳読レビュー
今回紹介した『俺たちの箱根駅伝』は、Audible(オーディブル)の配信があります。
実際に聞いた5つ星レビューはこちら。
項目 | 評価 | ひとことコメント |
---|---|---|
おもしろさ | 上下巻でも、あっという間に聴ける面白さ! | |
聴きやすさ | 登場人物の読み分けが上手です。 | |
長さ | (上)10時間39分 (下)9時間19分 3日以上かけて味わい尽くそう! | |
総合評価 | さすがの池井戸作品です! |
特にナレーションが上手で、甲斐監督のセリフが生徒の胸にしみていく感覚を味わえました。
上下巻セットでボリュームこそありますが、本当に駅伝中継を見ているような没入感があり、聴き始めるとあっという間。
ライバル校以外は実名になっている点も、よりリアルです。
5分のサンプルは無料で聴けますので、以下のリンクからチェックしてください。
【まとめ】箱根駅伝の解像度が上がる名作
正月の風物詩、箱根駅伝。
もはや当たり前の光景ですが、その裏にはテレビ関係者の隠された苦労や配慮、そしてランナーの想い、監督のマネジメントがあり、これらが重なり合ってドラマが生まれています。
本書を読むと注目したくなるのが、学生連合チーム。
単なる順位・結果だけでなく、別の視点から見ることができ、箱根駅伝の解像度がグッと上がること間違いなしの名作。
ぜひ一度、手にとってみてください。
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